資本的支出と修繕費についての考察
今回は、「資本的支出と修繕費」という古くからある論点を掘り下げてみたいと思います。
会計だけを勉強しているときから旧知の論点です。しかし、新たな発見というものはあるものですね。
裁決事例を中心に考察を進めていきました。
(平成27年10月15日裁決)
TAINZから引っ張ってきた事例です。公開裁決事例ではないかもです。
1. 結論(法人税法施行令132)
先に結論から書いた方がイイかなと。
結論としては、法人税法施行令第132条一号及び二号に集約されています。
(所得税は、所得税法施行令第181条)
実は自分もしっかりと読み込んだ事がなかったので、反省の意味を込めて引用します。
第132条 資本的支出 |
どうでしょうか。
比較するため、通達を見てみましょうか。
法人税通達7-8-1(資本的支出の例示) |
法人税通達7-8-2(修繕費に含まれる費用)
法人がその有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の通常の維持管理のため、又はき損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分の金額が修繕費となるのであるが、次に掲げるような金額は、修繕費に該当する。(昭55年直法2-8「二十六」、平7年課法2-7「五」により改正) |
長いですけどご容赦を。
僕もこの仕事でもう何回も資本的支出と修繕費の判定を行ってきましたが、いつも通達を見ていた気がします。
その度にわかったようなわからないような気になっていたのですが、特に7-8-1の表現が施行令と少し違っていたからなのですね。
「固定資産の価値を高め」
「耐久性を増すこととなると認められる部分」
この二つは、言ってることはわかるけど、じゃあ目の前の修繕費・改良費は該当するの?しないの?の判定ができないからです。
そしていつも事例集で類似事例を探して結論を出していたのです。
次に7-8-2ですが、
「通常の維持管理」
「原状を回復するために要したと認められる部分」
これも同じです。
通常って何?
大体の修繕費は原状回復目的では?
と感じていました。
2. 疑問に感じていたこと
通達から抜き出したキーワードを再度確認してみましょう。
A 固定資産の価値を高めるための費用
B 固定資産の耐久性を増すこととなる部分の費用
C 通常の維持管理費用
D 原状を回復するための費用
なぜ、目の前に修繕費が出てくると悩んでしまうのかというと、これらABCDは、税務上は異なる取扱いになるはずなのに実際は複数の属性を持っている修繕費用が存在するからです。
・維持管理費用と思って修理しているけど、これって価値は上がってるよね?
・維持管理費用と思って修理しているけど、これって固定資産の寿命は延びてるかも?
・原状の回復でもあるけど、修理しないと二束三文の資産なので価値は上がった?
・原状の回復でもあるけど、固定資産の寿命は延びたかな?
この有様です。
ですから事例集に頼ってしまうのですね。いや事例集は便利ではあるのですけども。
3. 通達から離れて条文へ
通達を見ても、逐条解説を見ても目の前の修繕費の判定が覚束ない。
(逐条解説は、通達は例示であるとして当該例示の説明に終始している感があります。)
しかし、条文を見ればおぼろげながら見えるものがありました。
引用赤文字部分を中心に、
「当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測される当該資産の使用可能期間」
「当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測されるその支出の時における当該資産の価額」
資産取得時の予測がポイントだったのです。
資産取得時に予測した使用可能期間、資産取得時に予測した将来各時点の価値、これです。
これでもまだ疑問は残ります。
「通常の管理又は修理」とは?
この部分が、通達でいうところの
・管理 → 維持管理
・修理 → 原状を回復するため
に解釈されていることは明らかです。
維持管理について私見を述べます。
その資産を使い続けるにあたって、一般的に支出する維持費・管理費は、これに該当することになります。
また、条文の書きぶりから、取得時の予測使用可能期間にわたり問題なくその資産を使用し続けるために要する費用は、これに該当することになります。
たとえば、「資産の使用可能期間は10年。甲部品の取替は3年に一回必要」だとすると、甲部品は維持費に該当することになると考えます。
代表的な例示として、
・車のオイル交換、車検、タイヤの取替
・マンションの外壁塗装
・エレベーターの毎年のメンテナンス
などありますが、これらは車、マンション、エレベーターの使用可能期間より明らかに短いスパンでの費用支出となるため、「通常の維持管理費」となると考えます。
次に、原状回復について考察します。
冒頭記載の裁決で語られた内容を紹介したいと思います。
法令解釈等 |
原状復帰のための費用だけでは、施行令の「通常の修理」として認められない可能性があるということです。
つまり、事故・災害・不良品・不具合etcでないとダメと。
これは納得じゃないでしょうか。
施行令が「予測される使用可能期間」と言っていますが、この使用可能期間内の通常の使用方法でのき損・減耗が予定されているものは、維持管理費用に組み込まれるでしょうし。予定されていないものは、上記の事故災害等に含まれるでしょうし。
原状回復費用でいつも断を下せなかったのが、
『エンジンが寿命でもうダメ。これを修理しないと動かない。動かすための修理なんだから、原状回復です。』
という論です。
原状回復という言葉が都合の良いように解釈されている典型です。
この考え方では、すべての修理費用が原状回復になってしまいます。
エンジンの寿命は、その資産の使用可能期間より短いとは考えられません。
使用可能期間より長いか、同じか。そうなるはずです。
そうすると、自ずと寿命によるエンジン劣化の修理は、当初予測の使用可能期間の延長に該当することになります。
4. その他の疑問
主要部品
主要部品の取替の場合は、資本的支出にしていることが多いと思います。
では、主要部品の取替だから資本的支出になるのでしょうか。
これはNoだと考えています。
前述のエンジンの項目でも述べましたが、主要部品であれば、当該主要部品の使用可能期間は資産の使用可能期間以上でなければなりません。
もしエンジンの方が寿命が短いということであれば、エンジンが主要部品でない、又は使用可能期間の予測が間違っているとなります。
通常の使用可能期間内に、比較的高額であるはずの「主要部品」の取替が予測されている資産を誰が買うでしょうか?
主要部品と資本的支出の考え方は、結論は合致していることが多いと思います。
しかし、ルートはきちんと通るべきです。なぜ資本的支出になるのか、という問いの答えは「主要部品だから」にはなり得ないのです。
主要部品の取替は、当初予測の使用可能期間の延長に繋がるためです。
使用可能期間
使用可能期間は法定耐用年数とは異なる概念です。
これは文理解釈上明らかです。
施行令には法定耐用年数と書いていないですし、定義付けもされていません。
たとえば、普通車両の使用可能期間は、6年でしょうか?
使用可能期間ということであれば、10年はあると思います。
実務では、ここがキモとなる可能性が高いです。
法定耐用年数は、資産の区分を特定してしまえば自動的に固まる年数ですが、使用可能期間にそういった自動的なルートは存在しません。
これは、納税者側でもそうですが、課税庁側でも同じなのです。
裁判や裁決になることを考える前に、税務調査での対応を考えたいと思います。
ある資産についての多額の修繕費を見て、調査官はこう思います。
『これは資本的支出ではないか』
しかし、これを否認するためには、まず使用可能期間を調査官の側で予想する必要があります。
これは容易ではありません。
このときに、きちんとしたデータや根拠付けが納税者側から提示されると、その資産についての専門的知識を持たない調査官は、『そんなものかな』となります。
この第一手で引いてもらうことが大事なのです。
署に持ち帰って詳しい上司先輩・審理官と相談される前に、論点として消してしまうのです。
そのために、客観的な根拠を以って使用可能期間を準備しておくことは重要だと考えます。
使用可能期間 2
旧法人税通達233では、使用可能期間についてこう書かれています。
省令別表第1に掲げる資産(当該資産について個別耐用年数が定められていない資産を除く)については、その耐用年数をいう。 省令別表第2又は別表第5に掲げる資産及び別表第1に掲げる資産のうち個別耐用年数が定められていない資産については、その個々の資産について取得の時において事後通常の管理又は修理をなす場合において使用可能と認められる年数をいうのであるが、この場合において個々の資産の使用可能年数の総額の平均は、省令別表に定められている当該資産の区分につき定められている耐用年数と一致するものとする。 |
これは、使用可能期間=法定耐用年数という意味合いなのですが、実務家としてはこの考え方は有利に捉える必要があります。
つまり、法人税法上「使用可能期間」の定義付けはされていないのであり、上記の旧通達の考え方を参考とすると、少なくとも法定耐用年数よりは長いと考えられます。
一般的に課税庁と争いになるのは、
・納税者は修繕費
・課税庁は資本的支出
なのですから、使用可能期間が長いほど納税者の主張の支援になるはずです。
もちろん、課税庁が「使用可能期間=法定耐用年数だ」と言って主張してきた場合には、法令を基に「定義付けはされていない」と反論する。
そのうえで、当該資産の客観的な使用可能期間の根拠を提示できれば、なおよし。
5. 最後に(裁決の中での納税者側の主張)
裁決を殆ど引用できていないですが、最後に当該裁決の中での納税者側の主張を見ていきたいと思います。
事実
その前に、事案の流れをカンタンに。
立体駐車場の修理費用が論点です。
立体駐車場の「循環装置を構成するある部品の取替」です。
裁決では、立体駐車場と修理箇所について
本件駐車設備>本件循環装置>本件各部品(循環装置に係る電動機、制御用ブレーキ、停止用ブレーキ、減速機)
と細分化して考えています。
金額は全く関係ないですが、18,585千円です。
イメージとしては、マンションの限られた敷地の中でたくさんの車を停められるようにグルグルと自動で循環して車を駐車できる設備です。
裁決では、
・本件循環装置は、本件駐車設備の主要部分である。
・本件循環装置について、その修理履歴から定期的な部品交換・メンテナンスを確認。
・その定期的なメンテナンス等に、今回の本件各部品の取替は入っていない。
(つまり、駐車設備の取得後初めての取替だった)
という事実が確認されています。
使用可能期間
「本件各部品は、一般的には10年と言われているが、実際には20年程度使用可能である。」
(法定耐用年数は10年)
この申述をしたのはベテランの業者さんのようです。
これを裁決では参考としています。
審判官は、法定耐用年数などは論点としていません。参考とはされていたかもしれませんが。
納税者主張
・循環装置のみが重要な構成装置ではない。
・本体価額に占める取替各部品の価額の割合は、3.7%程度と少額。
・駐車場設備の一部の部品取替であるため、使用可能期間の延長には至らない。
・各部品の取替は、通常の維持管理のため、又は摩耗・劣化・き損した固定資産の原状回復のための費用
これに対しての結論は、
・審判所の事実確認より、本件循環装置は、主要部品である。
・本件各部品が主要部品であることは先に述べた。価額割合で主要部品の判断はできない。
・20年という通常の使用可能期間を超える使用に基因した劣化。これは通常の使用以外の原因によりき損した固定資産つき原状回復のための工事費用とは認められない。
・本件各部品の取替は、オイル交換・他の部品のように定期的行われた工事とは異なる。
として、納税者主張を退けた。
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