不動産所得の必要経費性についての一例(事業所得も同様)
11月も終わりが見えてきましたね。
12月に入るとあっという間に年明けになってしまいますので、今年ももう終わりですかねえ。
今日は個人所得税の不動産所得に係る必要経費性の争いについて確認したいと思います。
題材は、裁決事例の(平成30年2月1日裁決)です。
1. 裁決の概要
争いは、
・調査手続の違法性
・必要経費性の有無(固定資産税)
・必要経費性の有無(車両関係費)
・必要経費性の有無(交際費)
に分かれていますが、前半二つについては省略します。
後半二つ(車両関係費、交際費)について見ていきたいと思います。
この二つとも、審判所は課税庁側の主張を採用しており、納税者としては追徴税額が発生しています。
2. 必要経費
事実
調査の過程において、調査官の側で必要経費性に疑義が生じたものについて、
「支払日」
「支払金額」
「必要経費計上額」
「事業割合」
「支払先」
を調査官が記載、リストを作成し、納税者に対して
A 必要経費とした根拠
B 事業割合の根拠
の記載作成を求めた。
納税者側の第一弾の回答としては、
『業務上必要と判断したため』『事実に基づき判断』
などの内容、又は記載なしでの回答であった。
次に調査官側から、見直しと再提出を求められ、
『賃貸物件を修理、手入れする際に使用する車両に関するもののため』
と改めて回答した。
(※平成28年4月22日~5月18日にかけて)
納税者自宅において、調査官が聴き取り等により、必要経費に算入している費用の内容等を確認。
(※平成28年6月1日)
納税者は、税理士を通じて修正申告書を提出。
(※平成28年6月8日)
調査官から税理士に対して、必要経費に算入している金額の一部につき、事業に関連性がない等の理由から、所得税の計算上必要経費とならない旨、および消費税の計算上控除対象仕入税額にならない旨を説明した。
(※平成28年8月1日)
課税庁は、平成28年6月8日に提出された修正申告書において必要経費に算入されたもののうち、必要経費に算入されないと判断したものを減算し、更正処分を行った。
(※平成28年9月29日)
納税者は、審判所に対して、本件
・本件自動車の具体的な使用方法や頻度を明らかにする証拠
・本件交際費が納税者の不動産貸付業に直接関連している支出であることを明らかにする証拠
を提出していない。
納税者主張
【車両関係費について】
所有し、貸付を行っている不動産について平成24~26年に管理業務等を行っている。
取引の記録等に基づいて、車両関係費が「業務の遂行上直接直接必要であった」部分に当たることを明らかにしているから、本件車両関係費は必要経費に算入される。
【交際費について】
必要経費に算入した交際費は、業務と直接の関連性及び必要性を持つものである。
調査等において、一部ではあるが具体的な相手先を明らかにしているほか、金額も過大でなく客観的に妥当であるから、本件交際費は必要経費に算入される。
課税庁主張
【車両関係費について】
納税者が不動産の管理業務等に使用していたと主張する本件自動車の
・使用回数
・走行距離
は、いずれも概算により算定した数値であり、かつ、数値算定に用いた自動車は、いずれも現在使用している自動車であり、本件自動車とは異なる。
したがって、納税者は、取引の記録等に基づいて「業務の遂行上直接必要であった」部分を明らかにしているとは言えず、本件車両関係費は必要経費に算入されない。
【交際費について】
納税者は、本件交際費について、支出した目的及び相手先の名称や相手先との関係等を、その一部しか明らかにしておらず、不動産貸付業との直接の関連性及び必要性が認められない。
したがって、社会通念上必要なものとして客観的に必要経費として認識できるものとは言えないから、本件交際費は必要経費に算入されない。
3. 審判所の判断
法令解釈について
この法令解釈は、とても重要です。
重要なのに、このとおりに準備できていない納税者の方がいらっしゃいます。
では見ていきましょう。
【所得税法37①_必要経費】
所得税法第37条第1項に規定する「販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」とは、その費用が
・業務と直接関係を持ち、かつ、業務の遂行上必要なものに限られ
また、その必要性の判断においては、
・事業主の主観的な判断のみに拠るべきではなく、通常必要なものとして客観的に認識できるものでなければならない
と解するのが相当である。
【所得税法45①、施行令96二_家事関連費】
所得税法第45条第1項第1号及び所得税法施行令第96条第2号の各規程によれば、家事関連費が不動産所得の計算上必要経費と認められるためには、
・取引の記録等に基づいて、不動産所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であった部分が明らかにされる必要がある
と解するのが相当である。
当てはめ
【車両関係費】
納税者から、取引の記録等に基づいた本件自動車の具体的な使用方法や頻度等を明らかにする証拠の提出はない。
納税者の不動産貸付業の遂行上必要であった部分が明らかとなっているとはいえない。
審判所の調査及び審理の結果によっても、本件車両関係費が、客観的にみて請求人の業務と直接の関係を持ち、かつ業務の遂行上必要な支出であると認めることはできない。
したがって、本件車両関係費は必要経費に算入できない。
納税者から証拠として
・乗換後の自動車の走行距離の計算書、自動車車検証等
の提出があったが、この資料は審査請求後に作成された資料である上、実際に使用していた本件自動車の記録に基づいて作成されていない。
これでは、本件自動車(乗換前)の具体的な使用方法や頻度等は明らかになったとはいえない。
審判所の調査によっても、本件自動車が、客観的にみて納税者の不動産貸付業に供されていたと認めることもできない。
【交際費】
納税者から本件交際費について、納税者の不動産貸付業との関係について合理的な説明はない。
納税者の主張を裏付ける証拠の提出もない。
審判所の調査及び審理の結果によっても、本件交際費が、客観的にみて納税者の業務と直接関係を持ち、かつ、業務の遂行上必要な支出であるとは認められない。
したがって、本件交際費は、必要経費に算入できない。
納税者は、本件交際費に対応する贈答先を示して、本件交際費が不動産貸付業務と直接関連し、業務の遂行上必要なものであり、また定期的に贈答する相手先を明らかにしていると主張する。
しかしながら、その主張を裏付ける証拠はない。
本件交際費と納税者の不動産貸付業との関連性も不明である。
4. 雑感
全体的に納税者にとって厳しめの結論となっています。
次の二つに分けて考えてみたいと思います。
「証拠」
「法令」
証拠
裁判、不服審判所、税務調査、いずれの段階でも証拠は重要ない意味を持ちます。
争いが進むほど、証拠の証拠能力・証明力が求められます。
極端な話ですが、裁判では使い物にならない資料でも、税務調査で調査官がその資料を見て「そうですね。わかりました。」と言えば、論点にならなかったりします。
何もないのが一番困りものです。
僕はいつもクライアントに
「経費性があるからこそ、根拠となる資料をしっかり残しましょう」
と言います。
大変面倒ですが、それしか自分を守る手立てはないのです。
余談ですが、よく耳にする『レシートがあれば経費にできる』的なお話、あれは嘘です。
嘘でなければ、誇大広告です。
昔ソレ系の書籍を読んだことがありますが、その本を買いたくなる人が期待することは書いていなかったです。
つまり、書籍の題は『レシートがあれば経費にできる』ですが、内容は『何でもかんでも経費にできるわけでない』でした。
視点の違いだなと感じました。
売るために書かれた書籍というのは、読んでいて残念な気持ちになります。
僕はその本を読むときに「何でも経費にできるな(期待)」と思って読んだのですが、なんのことはありません。
真面目に仕事をしている税理士なら当たり前に経費にしている内容が書かれていただけです。
落胆。
話を戻しますね。
根拠となる資料を残したくない人は、大きく分けて次の2パターンになると思います。
・パターンA 資料づくりが面倒臭い
・パターンB 資料を残すと、経費性を否定する内容になってしまう
パターンAの方には「面倒ですが、絶対に残した方がいいです。自己防衛ですから」と伝えたいです。
パターンBの方には「それは必要経費にできないです」と伝えたいです。
こんなに話は簡単なのに、実務現場ではもう少し話がややこしくなります。
本音はパターンBなのに「資料作りが面倒」と言い出す人達です。
はっきり言います。
これは論外です。
そして、詳細はわかりませんが、紹介した裁決例の納税者の方はこれに近かったのではないかと思われます。
もしそうではなく、パターンAであったならば、やはり根拠資料の重要性を認識すべきです。
法令
法令解釈として、
・所得税法37①
・所得税法45①一
・所得税施行令96二(本当は一号も入ると思います)
が列挙されています。
僕もこの業界に入って、確定申告業務やって、という段階では勘違いしていました。
「プライベートの割合を除いて、事業分を経費にできる」
と思っていたのです。
法令は、そうは言っていません。
家事関連費は、所得税45①一で必要経費にならないことを定めています。
初めてこのことを知ったときは本当に驚きました。
必要経費にならないのです。
必要経費にならない家事関連費から外れるもの(つまり、必要経費に算入できるもの)として、所得税法施行令96条が定められています。
この所令96に、
『その必要である部分を明らかに区分することができる場合のその明らかにされた部分に相当する』
のように書かれています。
まず、
・明らかに区分できる
ことを要請され、次に
・その明らかに区分された部分の金額
が必要経費とできるのです。
明らかであるか、明らかでないか。
明確であるか、明確でないか。
そのために、証拠を残す必要があるのです。
業務の遂行上必要な部分を明らかに区分するために、証拠を残すのです。
そして、業務の遂行上必要かどうかは、客観性が求められます。
客観的にみて必要な部分を明確に残す。
そうすることによって初めて、原則は経費とできない家事関連費が、所得の計算上必要経費と認められるのです。
実務上はなんとなく事業割合を計算して、所得税の確定申告に臨んでいる人もいるかもしれません。
ただし、その根底にはこれらの法令が存在していることを忘れてはならないと思います。
少なくとも税理士である僕たちは、意識していないといけません。クライアントを守れないから。
忘れてしまって、税務調査があって。
そうなると、この裁決のようにいくら争っても勝てないという話となってしまいます。