資本的支出と修繕費についての考察(追記)
前回の記事を書きながらあれやこれやと頭に浮かんだことを少し。
1. いつ頑張ればいいのか
修繕費か資本的支出か、これは法人税別表4でいうところの留保項目の話です。
したがって、税務署に否認されたとしても納税者の主張が通ったとしても、損金の期ズレの問題です。
ですので、小さい金額で頑張っても労多くして…、になる可能性が高いです。
(実際に法人税通達7-8-3では金額の小さいもの、周期の短いものについては修繕費でOKとしています)
修繕費用の金額が大きいときに頑張りましょう。
このときに、保守的に処理すれば法人税の前払いになりますし、強めに処理すれば後の否認リスクが高まります。
いずれにしても根拠をしっかりもっていないといけません。
前回紹介の裁決に限らないのですが、判例や裁決例などでは、事実確認を終えた後で整理整頓された内容を見ることになります。
調査権限もない税理士にそれができるのかというと大いに疑問は残るところです。
しかし、何もしないわけにはいきません。
また、クライアントから「使用可能期間の根拠って言っても、何を準備しておけばいいの?」と疑問を投げかけられる場面もあるでしょう。
2. 何を頑張るのか
僕が最も大事にしているのは、事実です。
事実に基づく主張が一番強いです。
逆に弱いのは「主観」です。
さて、では修繕費・資本的支出の区分に関する事実とは何になるでしょうか。
前回記事で紹介した裁決例では、
・第三者である業者の申述
・電動機(本件各部品の一部)の取替提案書
・保全工事計画、実績表
・立体駐車工事履歴(修理履歴)
を基に、通常の維持管理費用かどうか。主要部品の取替かどうか。一般的な使用可能年数は。などを確認していました。
上記の採用証拠で共通となるのは、「客観性の高い申述、又は書類」であることです。
ものにもよると思いますが、高額な資産であればあるほど、ベンダー業者から「使用期間に係る保全、メンテナンスの概要がわかる資料」を取得しておくのが吉でしょう。各構成部品について、何年目安での取替・修繕が発生するのか、それがわかれば通常の維持管理費用として区分できます。
ここで大事なのが、購入時にそういった資料を取得しておくことです。
変な話ですが、みなさん修理費用が出る時点で、その費用が損金になるかを判定しています。
これでは恣意性が介入していないという主張を、なかなか調査官に素直に信用してもらえません。
彼らは疑うのが仕事ですので。
もともと購入時に予定していた計画に沿って処理していれば、これに勝る客観性はないでしょう。
3. それでも恣意的に損金に落としたい
僕は何も否認リスクを下げるためだけに、こんなことを言っているのではありません。
税金を支払いたくない気持ちは十分理解しています。
しかし、「修繕費だ資本的支出だ」と頭をひねっても、所詮は期ズレの話です。
いつか損金になってくれるのです。
キャッシュアウトは遅い方がいい、これは経営の常識です。
しかし、2018年現在の様な低金利の時代では、割引現在価値の計算でもそこまで後払いの価値は高くなりません。
これと否認時の加算税・延滞税リスクを考慮すると、たとえ判定結果が資本的支出になったとしても正しく処理する方が有効だと思います。
ただし、中小企業の場合は税率特例に要注意です。
所得800万円までの法人税は15%で計算します。
所得800万円超だと23.2%で計算します。その差は8.2%です。
これと関連する損金の場合には、有利不利の計算を慎重に行う必要があります。
もちろん、この論点は「早くに損金になった方がお得」というものではありません。
所得800万円超にぶつけられる事業年度に損金となるのが有利、というものです。
(これは税額控除と特別償却の有利不利判定でも同じ考え方になります)
このあたりは顧問の税理士先生にご相談ください。
4. 徒労かもしれない
ここまでいろいろ考えておきながらなんですが。
修繕費や資本的支出は、税務調査でも大きな問題になりにくい傾向があります。
要因と思われる点をいくつか。
・いつか損金になる期ズレの問題でしかない
・解釈的要素を含む事実認定の部分が占める割合が大きい
・税務調査官に知識がない
税理士が頭を悩ませて出した結論の答え合わせにも至らないことが多いので、残念というかなんというか。
余談ですが、色々なところで耳にする
「私の会社では○○も交際費として落としている」
「私の会社では○○も旅費交通費で落としている」
「知人の会社では○○も経費・損金として落としている」
などの話の大半は、税務調査で論点にも挙がっていない(調査官が見ていない)可能性が高いと思います。
みなさん『だから損金として、軽費として認められる』という論になりがちですが、そこには大きな隔たりがあるのです。
ですので、僕はそういった根拠のない感想のような処理を安易に採用しません。