低解約返戻金型逓増定期保険と保険金等の支払調書の改正について

ご無沙汰しております。
以前の記事で、法人保険の活用という備忘Blogを書きました。
今回は、そこで記載した内容と改正を考慮して、反省の意を込めてのBlogになります。

結論から言うと、表題にある低解約返戻金型逓増定期保険を活用した「法人から個人への財産移転」にメスが入る可能性があるので、このスキームの危険度が増しましたというところです。
スキームの内容は、上記の備忘Blogをご覧いただくとして、どんな危険度が増したのかというお話です。

1. 支払調書の変更(2018年1月1日より)

保険会社が保険金又は解約金を支払う場合には、一定の情報を記載した支払調書を国税に提出しています。
提出するしない、自体は改正前と改正後でも変わりません。
問題は、その記載の内容に追加があったことです。追加されたのは、次のような項目です。

・支払時の契約者の直前の契約者の氏名、住所
・契約者変更の回数(施行日以降の回数)
・支払時の契約者の既払込保険料(施行日をまたぐ契約者については記載不要)
・契約変更時の解約返戻金相当額

契約者変更についての詳細情報を記載することとなったのです。
いかに国税が契約者の変更に目を光らせているかということです。

2. 改正の理由

財務省資料の「平成27年度税制改正の解説」によれば、改正の理由は次のとおりです。

「生命保険金等に基づく一時金又は損害保険等給付に基づく満期返戻金に係る一時所得の金額の計算上控除できる額は、原則としてその生命保険金等又は損害保険等給付の支払を受ける者本人が払い込んだ保険料等に限られていますが、例えば法人が契約した生命保険契約について、個人に名義を変更した後その個人に対して保険金が支払われた場合に、本来その個人の所得金額の計算上控除できない旧契約者(=法人)の払込保険料をも含めて控除しているなど、正しく所得金額の申告が行われていないケースがありました。こうした問題に対応するため…」

つまり、保険金又は解約返戻金を受け取った際に、法律で定められた金額を逸脱した金額で必要経費の額を計算し申告していたケースが増えた、ということです。
(具体的には、自分で負担していない保険料を必要経費に上乗せして過少申告していたのです。)

3. MHPスキームへの影響

はっきり言って不明です。
このスキームは、現在の所得税基本通達36-37(保険契約等に関する権利の評価)を基にしたものです。
この通達では、評価額は解約返戻金相当額となっているため、低解約返戻金型が威力を発揮するのです。

平成27年度税制改正の解説では、ここには触れられていません。
しかし、このスキームが過度な節税に繋がっていることは、国税も十分に把握しているでしょう。
このスキームが流行すればするほど、通達で封じ込められる可能性は高いと、個人的には考えます。
支払調書の変更で、「いったいいくら税金を失っているか?」の試算が可能になります。この金額を見て通達を変更するかもしれません。僕なら絶対そうします。

特に、このスキームについては租税回避的に利用されていることが多いと思われます。
こういったスキームを、国税は結構嫌うのです。
平成30年度税制改正で一般社団法人を活用した相続税の租税回避スキームが封じ込められたのは、記憶に新しいですね。

・低解約返戻金型逓増定期保険の有効な定義付け
・同保険の解約返戻金の適正な評価額の算定方法

の二つが整えば、通達を変更するだけでスキームが封じ込められます。
また、この封じ込めがいつやってくるかはわかりません。来年かもしれませんし、5年後かもしれません。
恐いのは、このスキームの採用を決定してから数年後まで待たないと効果を得られないという点です。改正リスクを織り込むと、僕はこのスキームをクライアントに勧めることができません。

さらに、現在の通達下でも所得税法157条(同族会社の行為計算否認)を用いて否認される可能性はあります。

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